Hさん

 苫小牧から離れて一年、いつも何か起きてやしないかと気になるが、幸い全国版で取り上げられるような悪いニュースは入ってこない。ただ、親しくお付き合いして頂いた方々の訃報には耳を覆いたくなる。(アマ)ダンス連盟の会長だったIさん、いつも食事を賄ってくれたO家のおばちゃん、4月には“シニアネット”でご一緒させて頂いた大好きなHさん。
彼女は、私より一世代、先輩で、具合が悪いとは聞いていたが、そんなに重篤とは思いもよらず、お見舞いもお別れもしないままに彼岸の人となってしまった。初めて会った時は、コーラスの練習の後で、“冬の星座”を歌ってきたのよ、と言い、 
  ♪地上に降りしく 奇(くす)しき光よ 
   ものみな いこえる しじまの中に・・・
 と、口ずさむ。私は、思わず、『ものみな(い) 肥える』と思っていたと話すと、歌詞の詳しい説明とメロディ付きでの講義となった。
「この曲はヘイス(1837〜1907、米)の曲に堀内敬三が日本語の詞をつけた。教科書で取り上げられ誰でも知ってる。正しくは 『ものみな、憩える しじまの中で』が正解。四十万(しじま)も、くすしき光も、美しい日本語でしょ」 と結んだ。その後も、会うのはたいてい、昼食時だったから、私は良く食べ、彼女は良くしゃべり、彼女の口からはいつも、珠玉のような言葉がこぼれた。『おてまわりがいい』も、『あずましくない』も、彼女に教えられた。
“冬の星座”は、授業で歌わされたときは、歌詞が難解で、好きな歌ではなかったのに、今は口ずさむと、星まで凍りつきそうな苫小牧の冬空と彼女の顔が浮かんできて、私のお気に入りだ。
 (近況)元気になりました。オートミールとキクイモばかり食べています。外出が難儀なので、最近、図書室兼、音楽室兼、会議室の小さな部屋を作り、みなさんに来てもらっています。エッセイサークルも始めました。庭のアジサイが“わがとき”とばかりに咲き誇っていて、こちらは梅雨・・・。